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-きたのひと新聞-

(社説)国の指示権拡充 非常時に活用できる制度の創設を

 感染症の蔓延(まんえん)や大災害が発生した際に、国が自治体に必要な事務処理を指示できる制度をつくろう――。

 こんな答申を首相の諮問機関の地方制度調査会が出す方向だ。コロナ禍を教訓に国と自治体の関係の見直しを議論してきており、最終答申は来月。それを受けて政府が地方自治法の改正へ動く。

 コロナ対応では施設の使用制限やワクチン接種、病床確保などをめぐり、国と自治体間の足並みが乱れた。同じ轍を踏むわけにはいかない。

 分権改革で、国が自治体を下部組織のように指揮して仕事をさせた機関委任事務を廃止し、国が本来果たすべき仕事を委ねる法定受託事務と、それ以外の自治体が担う自治事務に振り分けた。

 国と自治体はもう「上下・主従」でなく「対等・協力」な関係となったが、そのことによる弊害もコロナ対応で垣間見えた。

 一定の範囲で国としての指示権を拡充し、自治体にそれに従うことを義務づける新たな制度は必要である。

 分権改革では、国による関与は「必要最小限」で、自治体の「自主性・自立性への配慮」が原則だと地方自治法に明記された。新たな制度はこの分権改革の理念に合わせて、指示ができる範囲や義務付けされる内容をあらかじめ明確にし、無制限な関与とならないよう留意してもらいたい。

 現行制度では、コロナ禍に対応した感染症法に基づく対応は法定受託事務で、国は「是正の指示」ができ、その他の自治事務では「是正の要求」しかできないといった縦割りの制度のため、現場では、指示なのか要求なのか、義務なのか要請なのか、といった論争を招き、混乱が生じた。そのような反省を踏まえて、法定受託事務自治事務問わず一つの仕組みとすることが望ましい。

 コロナ禍では、個別法の問題点をその都度、一つひとつ法改正で対応してきた。そのため、対応は後手に回り、自治体は批判の矢面に立たされた。

 判断するための有識者とのつながりや全国の情報を持つ国が判断することで、他の自治体の動きを横にらみしながら手探りで判断していた自治体の負担も大きく軽減される。

 全国知事会は「国が一方的に指示するのでなく双方向の制度に」と主張しているが、非常時には、自治体側でも国からの指示に基づき行動する法的根拠が必要であろう。

 新制度が「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」で「生命、身体または財産の保護のため」に活用できるようなものとなるよう今後の議論を期待したい。

(参考)

www.asahi.com