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-きたのひと新聞-

(社説)医療的ケア必要な子 育て働く親取り残すな

 待機児童の減少や育休制度の拡充など、子育てをしながら働く親の環境は少しずつ整ってきた。男性の育休の取得についても徐々に一般化しつつある。

 だが、その波から取り残されているのが、人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの日常的に医療を必要とする医療的ケア児の親たちだ。ヘルパーによる介助だけでなく、訪問診療や訪問看護といった医療も必要となる医療的ケア児への支援を充実させ、誰もが柔軟に働ける社会を目指したい。

 自らも障害ある子を育てる昭和女子大現代ビジネス研究所の美浦幸子研究員が21年に行った調査で、都立特別支援学校に通う子の母親の就労率は回答者の55%であった。

 国の調査では、子育て世帯の母親全体の76%が就労していることを踏まえると、障害児を育てながら就労することの困難さがうかがえる。

 育児・介護休業法では、育児休業は1歳(最長2歳)になるまでとされているが、医療的ケア児を受け入れる保育園は少なく、入所を断られることが多い。

 就学後も通学や通院、授業中の付き添いが場合によっては必要となり、放課後の居場所確保にも苦労する。このような中で、支援が不足し、離職に至る人も多い。

 卒業後の行き場がなくなる「18歳の壁」も待ち受ける。同年齢の子どもたちが自立していく中、医療的ケア児の親は「終わらぬ育児」を続けなければならない。

 令和3年に医ケア児支援法が制定され、こうした状況を改善する方向性は示されたものの、具体的な支援の拡充は途に就いたところである。

 来年の通常国会厚生労働省が提出を目指す育児・介護休業法の改正案では、障害児の親らの個別のニーズに応じた支援策を盛りこむ方向で検討がすすめられている。

 労働政策審議会では、労働者の意向を聞き、時短勤務といった制度の利用期間などを配慮するよう企業に義務づける新たな仕組みを議論している。主に高齢者を念頭に設計された介護休暇などを障害児に利用する場合の判断基準の見直しも今後、検討される。

 JR東日本は今秋、障害児らの親の時短勤務を中学3年まで広げた。こうした柔軟な施策を企業に促す視点を法制度にどれだけ盛りこめるかが鍵を握る。

 同時に解決しなければならないのは、公的サービスの受け皿や人手の不足だ。健常児や軽度の障害児を受け入れる施設の増加に比べると、重度のケアが必要な児童を受け入れる施設の拡充はまだまだである。

 社会の限られた人的リソースを活用するためには、軽度の障害児をインクルーシブ化によって健常児とともに受け入れる環境を整備し、重度の児童を手厚く支援できる体制を構築するといった施策も必要となるだろう。

 医療の進歩により、家族のケアを受けながら育つ子どもと、その子をケアしながら働く親はますます増えるだろう。

 親が仕事をあきらめなくても、子どもを安心して育てる環境が一日も早く実現できるよう知恵を絞りたい。

(参考)

www.asahi.com