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-きたのひと新聞-

<社説>札幌市招致撤退 五輪よりも見据えるべきもの

 
 国際オリンピック委員会(IOC)は2030年冬季五輪をフランスで、34年を米ソルトレークシティーで開催することを内定した。38年大会はスイスと優先的に協議を進めるという。
 これを受け、札幌市の秋元克広市長は招致活動から撤退する考えを示した。五輪を起爆剤として、国の支援を手厚く受けて、都市のインフラ更新と再開発を進める市の構想は頓挫した。
 選手村とする予定だった市営住宅月寒団地の建て替え、月寒体育館の建て替えなど、五輪を前提とした老朽化施設の更新計画の見直しは急務だ。五輪招致から撤退する今、インフラ更新の必要性を含め計画を一から議論すべきだ。
 
 200万人に近い市民が住む札幌は人口減少の局面に入り、高齢化が進む。持続可能なまちの将来像を描かなければならない。
 札幌中心部に乗り入れるバス路線の縮小や、医療や除雪、教育など、暮らしに身近な施策を求める市民は多い。
 人手不足は、札幌市中心部の再開発といった建設現場や医療介護の現場で顕著に発生している。
 これらの課題は人口減少と高齢化によるもので、数年先の近い将来、行政がこれまでと同じエリアに同じサービスを提供することはますます困難となっていく。
 五輪誘致を断念した今、政治的リソースを都市のコンパクト化やサービス水準の見直しといったこれからに必要不可欠な施策の展開に振り向けてもらいたい。
 秋元市長の3期目任期は2027年5月までだ。再び招致に乗り出すとしても次期市政以降となろう。
 招致に乗り出す場合は住民投票で市民の意向を確認すべきであるが、今、市がなすべきことは招致の徹底的な検証だ。市は税金を充てる490億円以上の経済効果を強調したが、東京五輪を巡る一連の不祥事発覚や開催経費の増加によるさらなる負担増の不安から、市民の支持や理解は広まらなかった。
 招致トップの秋元市長が、市民に開催の大義や理念を積極的に示す姿も見えなかった。招致断念に至ったのは当然の帰結だった。
 約10年の招致活動で多くの人員が割かれ、予算支出は多岐にわたった。市はこれらの活動を検証し、同じ轍を踏むことのないよう詳細を示してもらいたい。
 札幌は五輪を開催した大都市で、国際的に一定の知名度があると思われているが、ニセコの近くにこれだけの大都市があるということは、実はあまり知られていない。
 人口減少、高齢化という課題の解決策の一つとして、インバウンドによる活力導入を図るために五輪を開催し都市ブランドを確立することは効果があるだろう。
 今から19年後の社会状況など誰も見通せない。市は、地道な子どもたちへの冬のスポーツ振興を続けていってほしい。
 その子どもたちが夢見る舞台を作る環境が整ったならば、今回の検証を踏まえたうえで、市民の合意を得て、再び手をあげればいい。
(参考)